巨匠の目


ここでルーベンスの素描を見てみましょう。
女性の少し見下げた目線、胸に当てた手が憂いのある雰囲気をうまく演出しています。
必要最小限の仕事で最大の効果を上げる、シンプルで素晴らしい素描です。

作画の手順を見てみましょう:
1. 紙全体がインクで予め茶色に着色されている。これがすべてのベース色となる。
2. ベース色より暗い部分を黒&赤チョークにて描写。

3. ベース色より明るい部分に白チョークのハイライトを入れる。(顔や手の一部)

rubens_drawing ルーベンス”Young Woman Looking Down” 1628

ここでベース色と呼んだものは「固有色」と置き換えることが出来ます。
ベース色は紙全体にほぼ均一についているので、厳密にはそれぞれのモノ(例えば衣服や背景)に固有の色を表している訳ではないのですが、西洋絵画で長い間受け継がれてきた「モノの見方」を示しています。

これまで述べてきました、
固有色、シャドウ、明部(+ハイライト)の仕組みを理解することで驚くほど短時間にデッサンを仕上げることが可能になります。
「理屈なんかメンドウ・・・」「見える通りに描けば良いじゃん・・・」
その通りかも知れません。
ですが
・「光のしわざ」を理解することで自分の狙う表現に必要な要素だけを選択できるようになる。
・自分の「知っていること(=思い込み)」と「目の前のモノの見え方」が食い違うとき、理屈を知っていると安心して
「目の前の見え方」を受け入れることができるようになる。
・ベース色との比較でトーンを組み立てるので
ミスを少なくできる
といったメリットはとても大きいものです。